グランクレスト大戦「長い長い夢の中で」(チラシの裏)
・注意
ルルブもサプリも手元にないので色々とフワフワしてる。
頻出するネタ。
色々適当。
【はじまりのはなし】
気がついたら、見たこともない街を歩いていた。
大きく息を吸い込み、澄み切った空気を胸に入れる。
こんなに美味しい空気を吸ったのは何時ぐらいぶりだろうか、と逡巡する。
そして、今まで自分は何をしていたのだったかという事に考えを巡らせる、が。
自分がどこに居て何をしていたのか、思い出せない。
否、思い出せないという表現は全く正しくない、『心当たりがありすぎる』というの表現が一番しっくりとくるだろうか。
家族と夕食を摂っていた記憶もある、エレメンタリースクールに行き途中だったような気もする、はたまた…大佐に引きずられて狩猟に出かけていたかもしれない。
近くにあった民家の窓に映る自分の姿を鑑みるに、エレメンタリースクールに通うような年齢ではないのは明白だが、それどころか父親の膝の上でおくるみに包まって眠っていたような記憶さえあるのだから、自分はもしかしたら気が狂ってしまったという可能性すら出てきた。
「あー……」
声は、出る。袖を振って、軽く服を確かめてみれば銃もある。
ぴょんぴょんとその場で飛び跳ねても、異常は感じられない。痛みもない。
頬をつねる、痛い。
困った、夢ではないらしい。
「誰かに、ここがどこか聞いたほうが早いですわね……」
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それから少し経って、自らが『投影体』なる存在になってしまったということをノーラは知った。
自分であって自分でないもの。ノーラの記憶を持ったノーラ自身ではないノーラ。
そう聞いた時、全く現実感が湧かなかった。まるで三文小説か、心霊学に傾倒する人間が言いがちな譫言のようにも聞こえた。
しかし、時間を加速させ、紋章の力を行使する人々を見せられれば、それを受け入れるしかなかった。
そのことを教えてくれたメイジ、プロフェットは銃やノーラの話す故郷の話に学者らしく子供のように目を輝かせていた。
この世界では無い技術らしく、分解し組み上げるという工程を何度かさせられるハメにもなったが、彼のおかげで何とかこの世界でもやっていけるだけの基礎知識などを得ることができた。
悲しみはあった、自分が自分ではないということ。両親や親しくしてくれた人達に会えないということ。
それらに溺れて絶望に沈むのは簡単だ。
だが、悪いことばかりではない。
この世界で、彼女は初めて”生まれ”というものから解放されたような気がした。
女性であっても学問ができ、自立できる。アイリッシュの血を引いていようが、父が盲ていようが誰も彼女にそれらによって束縛を与えようとはしなかった。
ノーラであってノーラでない彼女は、決意をした。
即ち、”本物”のノーラができなかったことを達成するのだ。
彼女にはそれができる。
自立し、自分の足で冒険しよう。知らないものを見て、新しいことを学ぼう。
(私は、きっと夢なのね)
少女が見た夢の果て、知らない世界で自分の生まれに束縛されず自由に冒険をすることを。
(ノーラができなかったことをするために、生まれてきたの。この”ノーラ・フォン・ヘルダー”は)
ならばそうしよう、それをしよう。
戦場を駆けて冒険に出かけて、本物の代わりに夢を果たすのが彼女の役目、生まれた意味。
「素敵なダンスを踊りましょう、エスコートしてくださる? この世界の作法に詳しくないの」
混沌の大地に投影された少女の夢は、戦場へと赴いた。